ヘーベルハウスは断熱材が入ってないって本当?構造と誤解をプロ目線で解説|「寒い家」になる前に知って!

「ヘーベルハウスは断熱材が入っていないから寒い」という噂を耳にすることがあります。

結論から言うと、ヘーベルハウスに断熱材が入っていないわけではありません。

ただし、ALC(軽量気泡コンクリート)外壁の“厚い躯体=断熱材”と誤解されたり、窓や気密の取り方、現場の納まり差で体感がぶれて「寒い家」という印象が生まれやすいのも事実です。

本記事では、構造の仕組みと体感差の理由をプロ目線で分解し、プラン段階・施工段階・入居後の三局面で「寒い家」を避ける具体策を整理します。

ヘーベルハウスの断熱材が入ってないという誤解を構造から解く

最初に、「断熱が入っていない」という言い回しが生まれる背景と、実際の構成を整理します。

ALCは断熱材そのものではなく、耐火性・耐久性・蓄熱性に優れた外壁材です。

実際の断熱性能は、ALCに加えて充填・付加される断熱材、窓(サッシ・ガラス)、気密・防湿の取り方の総合で決まります。

誤解が生まれる理由

「ALCが厚い=断熱材は不要」と誤解されるケース、展示場の暖房が効いた体感だけで判断されるケース、あるいは窓仕様や気密ラインの説明が曖昧で“断熱材の存在が印象に残らない”ケースが、噂の土壌になりがちです。

加えて、引渡し後に目隠しフェンスや外物置で日射を遮ったり、レースカーテンの使い方や換気設定の誤りで“冷え感”が増幅し、構造のせいと捉えられることもあります。

さらに、地域差(積雪・強風・海沿いの塩害)に応じた仕様のチューニングが弱いと、同じ商品でも体感の差が出ます。

つまり、断熱材が無いのではなく「見えにくい」「説明が届きにくい」「窓や気密がボトルネック」という三層の要因が重なって誤解が生じます。

構成の基本

ヘーベルハウスでは、外周部はALCパネルが主体で、その室内側(あるいは外側)に断熱層を設け、気密・防湿層と内装を重ねるのが大枠の考え方です。

屋根・床・基礎まわりも同様に、熱橋(ヒートブリッジ)を避ける納まりで断熱材を連続させるのが要点です。

下表は代表的な層構成のイメージで、シリーズや地域で厚み・材種が変わります。

部位外側→内側の層構成イメージポイント
外壁仕上げ塗装/ALC/通気層/断熱材/気密・防湿/石膏ボード通気と気密ラインの位置関係を明確化
屋根屋根仕上げ/下葺き/ALC or デッキ/断熱材/気密・防湿/天井小屋裏換気と断熱連続の両立
仕上げ/下地/断熱材/気密層/土間・基礎基礎断熱か床断熱かの方式選択
開口部サッシ枠/ガラス(複層・Low-E)/気密パッキン窓が熱損失の最大要因になりやすい

断熱と蓄熱の違い

ALC躯体は気泡を多く含み、熱を通しにくい性質に加えて“熱をため込みにくい・にくい”と表現されることがあります。

一方、断熱材は熱伝導を抑えて室温変動を小さく保つ役割で、蓄熱体(モルタル・石・ALC等)とは役割が異なります。

ここを混同すると、夏の日射取得や冬の放射冷却への対策がずれてしまい、「思ったより暑い/寒い」体感につながります。

運用上も、朝晩で暖房をこまめにON/OFFするより、弱連続運転の方が快適で省エネになることが多い点を理解しておくと、構造のポテンシャルを引き出しやすくなります。

  • 断熱=熱の通り道を細くする(伝導抑制)
  • 蓄熱=熱を蓄えて放出を遅らせる(熱容量)
  • 気密=空気の漏れ道を塞ぐ(対流抑制)
  • 日射取得・遮蔽=窓で入れたり止めたり(放射制御)
  • 換気=湿気・汚染物質の排出(快適と健康)

窓と気密の影響

戸建の熱損失は、壁そのものより窓と気密(隙間風)の寄与が大きくなりがちです。

外壁に十分な断熱材が入っていても、アルミ主体のサッシや単板に近い性能のガラスを選ぶと、体感は「冷える家」に寄ります。

また、コンセントまわりやALCと開口部の取り合いの気密処理、外壁貫通部のシーリングが甘いと、冷気の流入感や足元の冷えが残ります。

プラン段階で窓種とサイズ、設置方位を詰め、施工段階で気密ラインの連続を写真で確認する運用が、体感の安定に直結します。

現場差が出る要因

同じメーカー・同じ商品でも、現場納まり・職人手順・監理の解像度で体感はぶれます。

断熱材の充填ムラ、気密テープの剥離、ALC継ぎ目のシール打ち替え忘れ、サッシ周りのバックアップ材の入れ忘れなど、結果に直結する「小さな穴」を潰し切れるかどうかが分岐点です。

監理側と「チェック写真の必須カット」を事前合意し、引渡し前にサーモグラフィ等で温度ムラを点検できると、引越し後の“寒い”クレームを大幅に減らせます。

寒いと感じる原因を特定し先回りで潰す

次に、入居者が「寒い」と感じやすい場面と、構造・運用のどちらが原因かを見分ける方法を示します。

感覚を数値と現象に翻訳できれば、プラン・施工・運用のどこを直せば効くかが明確になります。

体感差の主因を見極める

「朝の洗面所が冷える」「窓際だけ寒い」「足元がスースーする」など、症状の言語化が第一歩です。

下表は、よくある場面と主要因の対応表です。

該当箇所を特定できれば、やるべき対策はぐっと絞れます。

場面主因候補一次対策
窓際が冷える窓性能・気密漏れ・日射遮蔽の過多内窓/カーテンボックス/気密補修
足元が寒い床断熱/基礎断熱の切れ・換気設定床下点検・隙間塞ぎ・送風見直し
洗面所が冷える局所換気の過多・窓の熱損失タイマー調整・暖房器具の追加
家全体が冷える暖房容量不足・運用・気密不足連続運転・隙間探し・熱源見直し

自宅でできる診断

専門機器がなくても、簡易診断で原因の当たりを付けられます。

温湿度計・線香・ティッシュ片・赤外線放射温度計を使い、窓際・コンセント周り・床見切り・天井と外壁の取合いを点検します。

外気温が下がる朝晩にチェックすると差が出やすく、改善の優先順位が見えてきます。

  • 窓ガラス・サッシ枠の表面温度を比較(中心部と枠で差が大きいと窓性能がボトルネック)
  • 線香やティッシュでコンセント・巾木・スリーブの気流を確認(揺れが強い箇所は気密漏れ)
  • 床下点検口を開けて冷気の流入を確認(配管周りの隙間を重点チェック)
  • 暖房停止後の室温低下曲線を記録(低下が急なら断熱・気密いずれかが弱点)
  • 日中の窓際の温度推移を記録(過遮蔽で日射取得を殺していないか)

既存の改善策

入居後の「寒さ」は、開口部と気密の手当てで大きく改善できます。

内窓の後付け、カーテンボックス+床まで届く厚手カーテン、サッシ周りのコーキングやバックアップ材の追加、床下・壁内の配管貫通部の気密処理など、施工性と費用対効果の高い順に手を付けるのがコツです。

暖房は弱連続運転+サーキュレーターで攪拌すると、局所の冷えを解消しやすく、光熱費の上振れも抑えられます。

計画段階で失敗しない仕様選びと監理のコツ

ここからは、新築・プラン段階で「寒い家」を避けるための、仕様・納まり・監理の具体策です。

数値と写真で管理し、窓・断熱・気密の三点セットを“連続”させる発想が最短ルートです。

断熱材の選びと納まり

断熱材は熱伝導率(λ)だけでなく、現場での納まりや経年の安定性、耐火・耐湿の相性で選びます。

ALCとの取り合いでは、防露を意識した防湿層の位置、配線・下地補強で断熱を切らない工夫が要点です。

下表は断熱材の代表例と特徴の整理です(厚みや施工法は地域区分・商品で変わります)。

材種特徴留意点
フェノールフォームλが小さく薄くても高性能防火・気密取りのディテール確認
高性能グラスウールコスパと耐火性に優れる充填ムラと防湿の管理が必須
ロックウール耐火・吸音・寸法安定気流止めの徹底で性能発揮
吹付硬質ウレタン隙間充填性に優れる厚み管理・可燃性・防火納まり

窓の選定

窓は断熱性能の要です。

方位ごとにガラス仕様(Low-Eの日射取得/遮蔽タイプ)を使い分け、枠は樹脂または樹脂複合で統一すると、体感が安定します。

庇・袖壁・外付ブラインドで夏の日射を止め、冬は南面でしっかり取り込む設計にすると、暖房負荷を下げつつ「暖かい家」の印象を作れます。

  • 北・東西=遮蔽型Low-E(熱損失・日射侵入の抑制)
  • 南=取得型Low-E(冬の日射を活かす)
  • 枠=樹脂or樹脂複合、スペーサーは樹脂・ステン採用
  • サイズ=必要最小で腰壁高を高めに(冷輻射抑制)
  • 納まり=カーテンボックス+床までの厚手カーテン

気密監理

断熱材以上に「線」で効くのが気密です。

ALCの目地、サッシ周り、配管貫通、天井端部、床勝ち上げなど、連続した気密ラインを設計段階で決め、現場で写真監理します。

気流止め材・気密テープは温湿度条件と相性があるため、プライマーや下地処理まで含めて手順書化しておくと、現場差を抑制できます。

費用対効果で考える優先順位と運用

最後に、限られた予算で“寒さ”の体感に効く順番を示します。

新築は窓→気密→断熱の順、既存は内窓→気密補修→暖房の連続運転+攪拌の順が外しにくい道筋です。

投資の優先順位

費用対効果を見誤ると、体感が変わらないままコストだけが積み上がります。

下のリストは、同じ予算感ならどこに先にお金をかけるべきかの一般解です。

家族の暮らし方(在宅時間・日射環境・家電の使い方)に合わせて微調整してください。

  • 新築:樹脂窓+適切なLow-E選定 → 気密ディテール → 断熱の厚み最適化 → 日射遮蔽装置
  • 既存:内窓/窓交換 → サッシ周り・配管の気密補修 → カーテンボックス → 暖房の弱連続+攪拌
  • 共通:換気設定の最適化(過換気を避ける) → ドアアンダーカットの調整
  • 寒冷地:基礎/床の連続断熱と気流止めを優先
  • 温暖地:日射遮蔽と通風計画を強化

オプション比較

同じ“断熱強化”でも、窓・断熱・設備のどれに投資するかで費用と効果が変わります。

下表は、新築での概略イメージです(規模・地域で前後します)。

体感の改善に直結する窓と気密に厚めに配分するのが王道です。

項目概算費用感体感への効果備考
窓性能の底上げ中〜高日射取得/遮蔽の使い分けが鍵
断熱厚みの増し熱橋対策とセットで効果発揮
気密ディテール強化写真監理で再現性UP
暖房設備の高効率化連続運転の運用と相性

運用で効かせる

設計・施工が良くても、運用で性能を殺してしまうことがあります。

冬は朝晩の断続運転より24時間の弱連続、カーテンは床までの厚手+ボックス、サーキュレーターで天井付近の暖気を撹拌、換気は過換気を避けつつ湿度40〜50%を維持すると、体感と電気代の両面で安定します。

玄関や勝手口のドラフト感は、ドア足元の気密材・戸当たり調整で大幅に改善できます。

「断熱が入ってない」という不安を構造と言葉で解消する

ヘーベルハウスは、ALC躯体に“断熱材+気密+窓設計”を重ねた総合設計で快適性が決まります。

「断熱が入っていない」のではなく、見えにくさ・説明不足・窓と気密の詰め漏れが体感差を生んでいるのが実像です。

新築は〈窓の性能と方位設計〉〈気密ラインの連続〉〈断熱の厚みと熱橋対策〉を数値と写真で管理し、既存は〈内窓〉〈気密補修〉〈連続運転+攪拌〉で体感を底上げしましょう。

この三点を押さえれば、「寒い家」になる前に、構造のポテンシャルをしっかり引き出せます。

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